札幌地方裁判所 昭和36年(む)130号 判決 1961年3月03日
被疑者 岡田稔
決 定
(被疑者氏名略)
右の者に対する公務執行妨害被疑事件について、昭和三六年二月二八日、札幌地方裁判所裁判官がなした勾留命令に対して、同被疑者から準抗告の申立があつたので、次のとおり決定する。
主文
本件申立を棄却する。
理由
一、申立の趣旨
昭和三六年二月二八日、札幌地方裁判所裁判官が申立人に対してなした勾留命令を取消したうえ、勾留請求を却下せよ。
二、申立の理由の要旨
(1) 被疑者は札幌中央警察署勤務巡査部長金子栄一、同巡査早河峯生の両名に対し、殴る蹴る等の暴行を加えたことはなく、従つて公務の執行を妨害したことはない。
(2) 仮りに右事実があるとしても、被疑者には勾留理由となつている公務執行妨害の事実についての証拠を隠滅する虞れはない。
三、当裁判所の判断
(一) 本件準抗告申立の理由(1)は結局被疑者は司法警察職員の職務の執行に際し、同人らに暴行を加えた事実はなく、公務の執行を妨害していないのであり、従つて犯罪の嫌疑がないのにかかわらず勾留命令を発したのは違法である、というのであるけれども、原裁判官が、勾留の要件である被疑者が罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があると認定して勾留の裁判をした以上、右犯罪の嫌疑がないことを理由とする準抗告の申立は不適法というべきである。
(二) 検察庁より取り寄せた本件捜査記録および被疑者本人取調の結果によると、被疑者が公務執行妨害の現行犯で逮捕された現場には、組合加入運転手も多数おり、いわゆる白タク共済組合の幹部として、陸運局や警察との交渉に当つたり、取締り官憲と組合加入運転手との間の紛争の予防や発生後の解決に当る為監督車に乗り込んで巡回に専念しているという被疑者の組合における指導的地位とか否認している被疑者の態度よりして、右運転手らに働きかけて証拠に不正な変更を加える可能性は充分認められるから、証拠隠滅の虞れは存在するというべきである。
よつて本件申立の理由(1)については刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項前段、(2)については同法第四三二条、第四二六条第一項後段を適用して本件準抗告を棄却することにする。
以上の理由により主文のとおり決定する。
(裁判官 鈴木進 神崎敬直 今枝孟)